余計なお世話?

 

手 芸  Ⅱ  ―  あの手この手で手を抜けば

              石膏型取り ~ 鋳込み ~ 整形 ~ 焼成

 

 

 

 原型からの型取り~石膏型からのグリーンウェアの抜き出しが容易にできるのは、このように指どうしが横並びになって前後にばらけず、真直ぐ伸ばした形になっているもの。

 まして、指が交差するように重なっていたりすると、作業はひどく難渋する。

 

 しかし、作業上のつごうに拘ってばかりいては、ろくな仕事にはならない。

 手の原型を作るときには、一切後々の工程を斟酌しないことにしているので、作ってしまってからあれこれの難行を余儀なくされることになる。(自業自得ですね。)

 

 この手の場合 ―

 

 問題は人差指~薬指が手のひらに被っている部分。

 ここを除けば、掌側と甲側との2型で取ることができる。

 では、取れない部分をどうするか。

 

 掌 - 甲 の2型を取る原型の傾きを油土で調節しながら、取るべき中型の範囲を探る。

 錘をつけた糸を垂らすなどして、被る部分(すなわち2型では取ることができない部分)を正確に割り出す。

 

 

 中型の範囲が決まったら、ここを除いた2型を取るための原型の傾きを確定する(粘土で固定)。

 パーティングラインマーカーでラインのあたりをつける。(上下の垂直方向に割れる2型のパーティングラインが引かれることになる。)

 

 

マーカーが入らないところは、シャープペンシルの芯などを用いる。


 

 

 手のような複雑で繊細な形の型取りでは、正確なパーティングラインを描き出すことは極めて重要。

 

 パーティングラインは赤い線で。(油土にまぎれないように。)

 石膏型を取る手順を決める。

 ①甲側 ②中型(指側) ③中型(掌側) ④掌側 の順。

 中型は2つに分けないと取り出すことができない。

 

 

 ここで用いた“パーティングラインマーカ―”と“懸垂糸”については、こちらを。 ☛ 工房>七つ道具

 

 最初に甲側を取る。

 甲側は複雑な形になることはまずないので、初めにここを取っておくと、その後の作業を安定して進められることが多い。

 (この次の例のように例外もありますがね…。)

 

 

 次に②中型(指側)を取る。(④掌を先にしてしまうと、中型取りの作業は難しくなる。)

 

 

 取る範囲を油土で決める。

 

 繊細なパーツになるので、堅牢な歯科用石膏を用いる。(ただし、本来の混水率20%を25%で。流動性をよくするため。堅牢度は感触としてはほとんど変わらない。)

 流し込んだ石膏がうまくおさまるように、傾けた石膏型を油土で安定させる。

 

 

 取れた中型は、余分な部分を削って形を整える。

 

 このようにおさまる。

 鋳込み後、グリーンウェアを傷つけずに外すことができる薄さになっていることが肝要。

 

 

 続いて③中型(掌側)を取る。

 同じく歯科用石膏を用いる。

 

 この状態では、②指側は指間の溝があるので、先に外すことはできない。

 ③掌側が先にするりと外せるよう、形を調整しておかなければならない。

 

 

 最後に④掌側の型取りを行う。

 

 

 型取り完了。

 

 だが、鋳込みに入ったところで問題が発生!

 

 中型の歯科用石膏と甲-掌の特級石膏との密度が違いすぎるために、中型部分に泥土が十分につかないのだ。

 厚くとれば修復がきかないわけでもないが、できあがりがあまり重くなってしまうのはおもしろくない。

 

 

 結局、甲-掌の型も、歯科用石膏で取ることに…。

 

 

 遠回りでした。

 

 

 抜いたばかりはこんな状態。

 

 

 形を整えるのは、けっこう手間のかかる作業だ。

 

 それでも4つそろえた。

 さて、いくつ無事焼き上がるか。

 (整形・修復に手を加えたほど、焼成の際のトラブルの確率は高い。南無三…。)

 

 焼き上がり。

 どうやら3つは使い物になりそう! ほ…。

 

 (微細なひびなどは、焼き直しか、FLUXで修正できる。)

 

 

 ひとつはひび割れがひどい。これはだめだな。

 (深い鋭角的な凹形は、雌型では逆に鋭角的な凸型になるので、泥土の着きが悪くなり、ひびを生じやすい。)


 

まずまずの成果でした。やれやれ。

 

 性懲りもなく、次の手にとりかかる。

 

 この手のばあい ―

 

 問題は中指と薬指が交差して重なっていること。

 こうなると、中型を作っても、甲側-掌側の2方向だけで型取りすることはできない。(そもそもそんな手を作らなきゃいいじゃないか、なんていわないでくだされ…。)

 

 まず初めに、どんな中型が可能かを検討。

 ラドールで仮の中型をつくってみる。(実際にこの型で取り出すことができるのか、を確認することが肝心。2つに分けた型のうち、とりわけ人差指~薬指にかけてのほうが微妙。)

 

 引っかからずに取り出せることが確認できたら、これを元にパーティングラインを引く。

 中型2つ + その他4つ の計6つの型に。(後、詳解する。)

 (それぞれの範囲が紛らわしくなったので、指先エリアにドット。)

 

 

 まず ①中型(小指~薬指)を取る。

 (この中型は甲と接していないので、‘最初に甲’という“定石”の例外。)

 

 

 次に ②中型(人差指~薬指)を。

 

 こんな形に。

 (少し出っ張っているのは、ぴったり作ってしまうと、取り外しにくくなるため。)

 

 中型が決まったところで、改めてパーティングラインに無理が生じていないか確認。


 

 

 ③ 甲 を取ったところ。

 

 

 ④ 小指側を取る。

 このあと、⑤ 親指・人差指側を。

 

 

 最後に ⑥ 指先側。

 

 

 全部のパーツが揃う。

 

 

 甲とそれ以外を組み合わせると ―。

 

 個別に見ると ―。

 

 ① 中型(小指~薬指)

 

 

 ② 中型(人差指~薬指)

 

 

 ③ 甲

 

 

 ④ 小指側

 

 

 ⑤ 親指・人差指側

 

 

 ⑥ 指先

 

 

 甲以外のパーツ。

 

 

 組み合わせると ―。

 

 この型から取ったグリーンウェアの状態。

 (指間の溝も取れている。)

 

  反対側。

 

   (石膏型を外す手順は、石膏取りとは異なる。ここでは、

    ③-④-⑥-⑤-①-② の順。)

 

 

 

 今回、型取りできなかった部分は、親指・人差指・中指の指先が合わさった裏側。

 ここの中型を無理に作ろうとすれば、極端に薄いものにせざるをえない。現実的な作業上、おそらく強度的に石膏は耐えられないだろう(歯科用石膏でも)。

 そこで、ここは後で削り出すことで処置。

 

 

 整形したグリーンウェア。

 

 焼き上がったところ。

 

 スムーズにグリーンウェアを抜き出せたので、ほぼトラブルなく焼き上がった。

 上出来、でした。

 

 ぎりぎりのパーティングラインで型取りしようとすると、やはりトラブルは生じやすい。

 グリーンウェアを型から抜き出すとき、パーティングラインに余裕がないと(まして、食い込んでいたりすると)損傷は生じやすい。(例えば2型の場合は、パーティングラインは厳密には狂いが許されないものになり、パーフェクトでないかぎり多かれ少なかれ欠損する。)

 腕や脚のようなシンプルな形なら、多少の狂いがあっても大きな損傷にはつながらないし、補整・修復も容易である。だが、手のような複雑でデリケートな形ではトラブルは厄介なものになる。

 後半の例では、型数が多くなるのと引き換えに、無理のない型抜きができるような石膏型取りにした。

 結果的には、この方が作業としてもスムーズだし、できあがりもきれいになる。

 パーティングラインが増えるので、焼成後の‘バリ’が気になるところだが、石膏型がしっかり噛み合っているなら目立つことはない。