余計なお世話?
化粧未満 - 君の睫毛は尖っているか
もちろん、リアルであればあるほどよいというわけではない。
自ずからリアルには限界があるし、かえって造形的に抽象化されたもののほうが洗練を感じさせたりもする。リアルがよいか、抽象がよいかはその人形が纏う空気しだいだろう。
だが、技術的な未熟・横着ゆえに誤魔化しただけなのなら情ないことだ。
そこで‘睫毛’である。‘睫毛’のリアルはどこにあるか。
❶ 睫毛の毛先は尖っている。
生えたままの毛と、一旦カットされた毛先は当然違っている。
生えたままはいわば円錐で、カットされたものは円筒である。睫毛がカットされることは、まあないだろうから、‘リアルな’睫毛の毛先は尖っていなければならない。
毛先がカットされた睫毛。
これ見よがしな‘付け睫毛’のような印象で、それはそれで人工美を感じさせないでもないですけどね。
❷ 睫毛は目蓋の角から生えている。
睫毛を目蓋の‘厚み’に貼ると、目蓋の奥(眼球?)から生えているように見えてしまう。
人形が上から見下ろされるようなら、ここはさほど目立たないが、見上げられるようなら些か不自然を免れない。
さすがの福松(横浜人形の家)。
生き人形の面目躍如ですね。
❸ 目頭側は疎で短く、目尻側は密で長い
これはほとんどそうなんじゃないかなあ。(この写真は本物の人間です。)
‘バンビのような睫毛’って言われるためには、この目尻側の長い睫毛がキモですな。
市松人形やアンティークドールは?
睫毛のある市松はまれ。
ほとんどこのように上目蓋の奥行きが黒く塗られている。
アンティークのビスクドールの睫毛は、上下とも描かれているのがほとんど。
(目蓋のカーブにぴたりと眼球を合わせている - 目蓋の奥行き・厚みがない - ので、睫毛を貼るとしたらかなり難しそう。)
SFBJのスリーピングアイには睫毛が付けられている。なかなかの技!(でも目を閉じると描かれた睫毛と分かれちゃいますねえ。)
‘リアルな’毛の調達
まず、毛先の尖った‘自然な’素材を調達しなければならない。
最も安直なのは、人形用もしくは人間用の‘付け睫毛’を用いることだろう。(ただし、毛先がカットされているものもあるので注意を要する。‘ミンク’などと称していても、原料はナイロン等の合成繊維である。)
天然素材にこだわるなら、黒毛の水彩画筆・メイクブラシから取る。黒毛の水彩筆はリス毛くらいしかないが、メイクブラシはリスのほか、イタチ(ウィーゼル)、テン(セーブル)、ポニー、タヌキなどを黒く染めたものがある。(だが極めて高価! 四谷シモンは動物製のメイクブラシの毛先を切って一本ずつ貼りつけている、と記している〈「人形作家」p158〉。ただし‘リセーブル’と称する天然と見紛うほどの人工毛もあって、今やそのほうが出回っているようだ。)
やや質は落ちるようだが‘うるし刷毛’に用いられている‘ヤンオ’も使える。これは中国江蘇省の長江下流に棲息する山羊(やまひつじ)の尾毛。(ちなみに最高級の書道筆はこの雄からごくわずか採れるたてがみで作られるそうな。)
‘睫毛’を作る-貼る
用意するもの
・‘睫毛’
・雁皮紙(きわめて薄い手漉きの和紙。‘なんちゃて’は不可。)
* 谷崎の「鍵」で、日記を盗み読まれているかを確かめる仕掛けに使われていましたね。
・ボンド(木工用・多用途)
・不透明絵具(グアッシュなど)
雁皮紙にボンドを塗り‘睫毛’を一本ずつ貼り付けていく。(睫毛を貼る雁皮紙の辺は‘縦目’になるように。)
‘縦目’については ☛ 「カミ技?Ⅰ」を参照されたし
どの程度の長さ・密度にするかのイメージを決め、カール(反り)の向きを揃えながら貼る。(あるていどのバラつきがあったほうがリアル。) 目尻と目頭とで変化をつけるならその辺も勘案しながら ―。
貼り終えたら、目蓋の長さ・奥行きに合わせて雁皮紙をカット。
こんな感じに ―。
雁皮紙に貼った睫毛が透けて見えるので、不透明絵具(グアッシュなど)を塗る。
睫毛は着物の着付けや持ち運びの際などに痛めてしまいかねない。ティッシュペーパー でこんな‘睫毛ガードゴーグル’を作ってみました(笑) (^。^)y-.。o○
後日。もうちょっっとマシなのを…。