余計なお世話?
カミ技?Ⅲ - おかっぱ頭の真実
和服なら、前髪・襟足を上げてげて生え際を見せるのが本来であることは「カミ技? Ⅱ」で述べた。
だが、童女の場合は‘おかっぱ頭’になる。市松人形はまずほとんどがそれだ。その手法は‘毛(髪)吹き’と称するもので、束にした髪の断面に濃い膠を付けて頭頂部に押し付け、息を吹きかけて広げる。これが‘つむじ’になる。あとはその周辺に髪を貼り付けるだけ。
あんがい簡便容易な手法だが、保管がよほど劣悪でなければ、昭和初期くらいの市松でもさほどの劣化は見せていない。だが、いまひとつ覚束ない手法ではある。
そこで独自の手法で、より安定したおかっぱ頭をつくる。以下は、その次第。(手間はかかりますけどね、毎度のことながら。)
*‘毛(髪)吹き’に限らず、和人形の伝統技法に関しては次の2著に詳しい。(とりわけ野口晴朗の著は、ここまで公開してよいのかと思うほど微細にわたる。)
高濱かの子 人形(マコー社:昭和53年)
野口晴朗 人形の伝統技法(理工学社:昭和62年)
材料・道具
・毛髪(当然直毛だが、素直すぎてもポリュームが出ない。)
・膠(髪を束ねるのに使用。日本画材として濃縮したものがある。)
・和紙(束ねた髪をさらに束ねるのに使用。極力薄い手漉きの楮紙がよい。‘なんちゃって’和紙はダメ。墨汁で黒く染めておく。)
・寒冷紗(束ねた髪を刺して定着させるベースとして使用。綿製のもの。これも墨汁で染めておく。園芸用のポリエステル製は不可。)
・木工用ボンド
・鋏
・ピンセット
・なぜか爪楊枝 等々
適宜工夫されたし。
髪の束をつくる
一定本数の髪を膠で束ねる。(厳密に数える必要もないが、ここでは15本で一束。人形の大さに合わせて適宜設定されたし。)
膠が乾くまで、お互いくっつかないように並べておく。
‘つむじ’をつくる
適当な大きさの寒冷紗に、左右から交互に髪束を刺してつむじをつくる。
こんな状態。
寒冷紗の一目ごとに交互に刺した髪束を交差させて、それぞれ適当な束数を和紙で綴じる。これでもう表側に抜けることはない。
爪楊枝であらかじめ寒冷紗の目を広げておくと、髪束が刺し易くなる。
(綿製の寒冷紗には糊がきいているので、広げた形状がしばらく保たれる。)
* 写真は‘つむじ’作りとは別作業の際のものです。
いくつかの髪束を綴じる際は、作業を容易にするために、下に白い紙を敷く。
細長く切った和紙にボンドを付けて髪束を乗せる。
くるんで、和紙のあまった部分を切り落とす。
なるべく放射線状になるように。
こんなかんじ。
裏から見ると ―。
つむじの中心部分だけでは、まだまばらなので、その外周も増やしていく。(すでにできあがっている中心が邪魔になるので、ヘアクリップで抑えて作業しやすくする。)
ここも放射線状になるように。
あるていどの密度ができたところで‘つむじ’作りは完了。
(この‘つむじ’は完全な‘点’ではなく、短い直線状になる。)
頭に載せてみる。
(コルクの頭蓋は最終的には黒く塗るけれど、この段階ではまだ塗らない。このほうが髪の密度をチェックしやすいですね。)
つむじ周りの植え込み
コルクの頭蓋に直接貼り付ける‘みの’をつくる。
髪束を寒冷紗一目に一束ずつ刺して、ボンドで寒冷紗に直に貼り付ける。
前髪はどうせカットしてしまうので、あらかじめ短い髪束を用いる。
前髪用‘みの’。
頭頂に近いところは、同心円のカーブもきつくなるので、より短い髪束列を作る。
一旦寒冷紗に刺した何束かを和紙で綴じ、寒冷紗から抜いてしまう。
コルクの頭蓋(黒く塗っている)に下辺から貼りつけていく。(頭頂から貼ると作業しづらい、当然。)
こんなところか?
実際に被せてみる。
まだ、密度が足りないようですね。(頭蓋との境界が透けて見えてしまっている。☛)
さらに髪を追加。
これでよからん…。
つむじを被せる前はこんな状態。
つむじの裏側は髪束が集まって盛り上がっているので、その分頭蓋のコルクを削っておく。そこにつむじを載せてボンドで固定する。
散 髪
ここで失敗してはこれまでの苦労が水の泡!
前髪は特に慎重に !!
まあ、かわいい !
(親バカですね ( ̄▽ ̄;))