余計なお世話?

 

バリ・フリー   ―‘バリ’からの解放  ―

 

‘バリ’はなぜできるのか?

 ビスクファイア後、パーティングラインにあたる部分が膨れたように盛り上がる。

 これについては 工房>なんで!? のなかの記事「その5 バリをめぐる一考察」で既に触れた。その後、これを解消しようと試行錯誤して何度か失敗に終わっていたが、東京窯志舎・箕浦徹哉氏のご教示により一定の解決策を見出すことができた(☛ 実験その3)。その実験結果を含めてバリに関する“研究成果”を以下に記載する。

 (既述の内容とも重複するがあえて再説し、ひとまとめのレポートとする。)

 

 この‘バリ’の膨らみ方は、石膏型の具合によってまちまちである。

 ひどく目立つことも、またほとんどまったく生じないこともある。どのような場合にそうなるのか、因果関係はよくわからない。

 

 ジュモーやブリュのようなアンティークでも、このような‘バリ’は顕著である(写真は所有のジュモー)。

 ウィッグや帽子で隠れてしまうので、問題視されることはなかったのだろう。

 だが、髪をアップする場合、ここはきれいに焼き上げたいところだ。

  なぜ‘バリ’が生じないことがあるのかは判然としないが、発生の原因として以下のような仮説を立ててみる。

 

 スリップ(泥漿)は、液体と泥土の粒子が混ざっている状態。

 これが焼かれると、水分が抜けて体積が収縮する。(約85%に縮むのは周知のとおり。)

 

 ところが、石膏型の合わせ目(パーティングラインにあたるところ)には毛細管現象*が生じ、この水流によって他の部分に比べてより多くの細かい泥土の粒子が引き寄せられる。

 その結果、この部分はより泥土の密度が高くなる ―すなわち水分の割合が少なくなるため、収縮率は他より小さくなる。

 よって、ここだけ膨らんだような状態になる。

 * 毛細管現象:細い管状物体の内側や隙間のような細い空間を液体が浸透していく現象。

 なお、箕浦氏は、通常一つの面からしか吸水されない泥土が、パーティングラインの部分では、二つの石膏面から吸水されて硬化するために密度が高くなるのではないか、と言われた。(こんなイメージだろうか?)

 こちらの方が妥当かもしれない。

 いずれにせよ、なんらかの原因でこの部分の泥土密度が高くなっているのは間違いないだろう。

 石膏型から抜いたグリーンウェアをよく見ると、パーティングラインの部分がわずかに濃い色になっていて、ここの組成が他と異なっていることが分る。

 (整形のため紙ヤスリをかける際にも、この部分が他より堅く締まっていることが感じられる。)

 

  焼き上がったパーツの断面は、こんな形になっている。

 パーティングラインにあたる部分は収縮が少ないので、このように膨らんだ形になるわけである。

 試みに‘バリ’を強引にヤスリで削って平らにすれば、その部分は当然薄くなる。

 光をあててみれば一目瞭然(矢印のところ)。

 (ヤスリで削った跡はビスク焼きと同じような肌合にはならない、もちろん。)


 

 

実験 その1 ― あえなく失敗! Ⅰ

 ‘バリ’発生の原因はともあれ、パーティングラインにあたる部分の土の組成が異なっている(より細かい粒子が集まっている)と思われることから、この部分を取り除いて埋め直してしまおうと考えた。すなわち ―

 

 グリーンウェアの段階でパーティングラインの部分を溝状に削り取り、そこに新たな泥土を埋め込んだうえで、ならして整形してみた。

 

 

 しかし、これを焼いた結果、やはりこの部分はかえって不規則な膨らみになってしまった。

 埋め直す泥土が本体と同様の組成でなければならないのだろう。

 

 

実験 その2 ― あえなく失敗! Ⅱ

 ‘バリ’の原因は、毛細管現象?だかによってパーティングラインにあたる部分に細かい泥漿の粒子が吸い寄せられるからだ、という仮説に立って、しからばその流れを緩和すればよいはずだと考えた。そこで ―

 

 合わせ目にほとんど隙間がないようなぴったり合った石膏型でも‘バリ’は生じる。(すなわち毛細管現象は完全には防ぎようがない。)

 では、この合わせ目を削って、パーティングラインを“遠ざけて”しまえばどうか。

 

 つまり、グリーンウェアは写真のような形で抜き出されることになるが、毛細管現象はこの突出した部分の‘頂点’のところでより強く発生しているので、これを削り取ってしまえは、その‘麓’では弱まっているのではないか、と考えたわけである。

 

 整形して焼き上げてみた。

 その結果 ― 。よりぼんやりと膨らんだ‘バリ’となっただけであった…。

 (かつ、大きく削った石膏型から抜いたものは、パーティングラインの部分が薄くなって焼成すると透けるようになってしまう。)

 

 

実験 その3 ― みごと、好結果 !!

 いよいよ策に窮したが、かねて気になっていたのは、磁器の食器も鋳込み式で作られているはずなのに‘バリ’は見えない。なぜか。専門の陶芸作家ならその‘秘法’を知っているのではないか。

 そこでぶしつけながら、文京区 本駒込で陶磁工房を主宰している作陶家 箕浦徹哉氏をたよって教えを乞うた。

東京窯志舎 https://www.yousisha.jp/

  

 まず、持参した有田焼(源右衛門窯)のとっくりを見てもらい、なぜこの磁器には‘バリ’がないのか、質問してみた。

 実は ― 、この器にも‘バリ’はあった!

 確かによくよく見るとそれらしきものがある。だが、食器などの場合、釉(うわぐすり)をかけるので、目立たなくなるだけだ、というのが作陶家の答え。(釉には細かい泡が含まれているのでさらに目立たなくする効果があるそうだ。)

 

 ビスクドールに釉をかけるわけにはいかない。落胆…。

 だが、ここで箕浦氏は焼成する前の作業を実演して見せてくれた。(写真は、後日、見よう見まねで再現したときのもの。)


 持参した型から抜いたままのパーツを手に取り柔らかい鹿皮(セーム皮)を濡らしながらパーティングラインの部分を擦る。

 濡れて柔らかくなった素地を、擦り取るのではなく、素地をほぐすように溶かしてパーティングラインの周辺と混ぜ合わせるようにする。(丁寧に根気よくこのパーツで5~10分ほどもかけただろうか。)

 

 イメージとしてはこんな感じだろうか。

 密度の濃いパーティングラインの部分を、周辺と均一化する。


 

 さすがにこの処理をされた部分はやや荒れた肌合いになるので、(グリーンウェアもしくは素焼き後に)紙ヤスリで整形し直したうえで、ビスクファイア(1222℃)する。


 その結果 ― 。

 左が箕浦氏の処理したもの。右は私が処理したもの。

 いずれも上が通常のまま焼成したもの。下が同じパーツにセーム皮処理をほどこしたもの。

 明らかに、‘バリ’はよくよく目を凝らさなければ分からないほど目立たなくなっている!

 これならバリが気になることはほとんどないだろう。

 どうしても目立たせたくない部分には、この処理をするに限る。

 

 

 蛇足 ― 。

 この処理では素地を擦り取るわけではないが、それでも若干は目減りする。

 それを嫌って「実験その2」で行ったように石膏型を削ったうえで、増えた素地にさらに溝を掘ってから、セーム皮処理をしてみた。(つまり、‘素地量’の帳尻を合わせた、ということですね。)

 そのうえで焼成。

 結果は、「実験その2」と同様でした。当たり前か…。