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仔ネズミを飼うはめに…

 

 仔ネズミを飼うはめになってしまった。

 生後どのくらいなのか、見当がつかないが、目も開いていないようだし、爪も生えていないのか、脚を立てるのもおぼつかずに足掻くように這うのがせいぜいだ。

 ネズミにはこれまでも何度もほとほと往生させられた。

 袋にでも入れて生ゴミに出してしまおうか、このまま放り出しても生き延びることはできまい。 ☞

 

 ネズミなど可愛いどころか、鉢合わせると思わずひゃっと声をあげてしまうくらいだ。だが親からはぐれてしまった仔ネズミとなるといささか不憫だ。二匹寄り添って丸まっている姿はいたいけというほかない。ずるい。

 親ネズミなら問答無用で処分してしまうのだから、うすっぺらな感情でしかないくせに。

 

 

 目が見えないでお互いを母親と勘違いするのか、相手の腹にもぐりこんで乳首をまさぐるような動きにも見える。う~む、浪曲子守唄の気分になってきたぞ。

  〽 逃げた女房に未練はないが

    お乳欲しがるこの子が可愛い

 まいったね。

 

 下手に放して万一親が救助してしまったら(多分あり得ないだろうが)住みつかれてえらいことになるし、処分するのも、カラスにでも喰われろと放り出すのも、いささか後生が悪い。

 というわけで、やむを得ずとりあえず飼うことになった。まあ、育たなかったら仕方あるまい。

 でも、歯も生えてないような仔ネズミって何を食わせたらいいんだ?とりあえず皿に砕いた米などを入れておく。

 

 仔ネズミたちが出現した状況はかなり衝撃的だった。

 けさ朝食の支度をしていると、背後でなにやらバサッというものが落ちた音。ほどなくばたばたと争うような物音。これは変だ、と音のする方に近づくと、だっと走り去る姿。ネズミだな、と直感する(最近 近所の旧家の屋敷が取り壊されてそこのネズミが引っ越してきたのか、夕刻あたりに天井裏でごそごそと足音がするのだ)。

 

 だが、次の瞬間、さらに恐るべき光景が。なんと、蛇が床に這っているのだ! この近所で蛇なんて、小学生の頃に飼っていた十姉妹を狙って入ってきたシマヘビ以来見たこともないぞ。足がすくむほど蛇は苦手だ。だが、このままでは…。せいぜい60㎝くらいのやつだ。へっぴり腰で塵取りに何とか乗せる。だがこれを乗せたままリビングを横切って、引き戸を開け、庭に放り出さなければ!(映画のあみ子だったら尻尾を掴んで振り回しながら持っていけただろうが…) などとおたおたしているまに、蛇はするすると逃げて行ってしまった!

 

 あわててどこに入り込んだんだ、とあちこちをひっくり返し、でも、出てきたら嫌だな、などとじたばたしていると、床になにやらうごめくものが。これが仔ネズミだった。さらにもう一匹。

 蛇はこいつらを狙ってきたのだな。

 多分、先に逃げたのは親ネズミで、この仔ネズミたちは蛇から逃れられるほど走れるはずはないから、親がこれを咥えるかして逃げてきたのか。二匹は咥えられないから両親が一匹ずつだったのかも。あるいは争うような音とも聞こえたから、親ネズミは果敢に蛇と戦ったのかもしれない。しかし人間が出てきてしまったら万事休すだ。

 仕方がない。勇敢な親に免じて子どもはこちらで面倒をみてやろうではないか。

じゃが、あの蛇はどこに行ったんじゃろか。

いつの間にか足元にうごめいていた、とか、戸棚を開けたらとぐろを巻いていた、とか…ひぇーっ…

(しかし、蛇が出るなら、ネズミはもう寄りつくまい。でも頼むから目の前には姿を見せないでくれよ!)