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鴎のうた

 

 FMを聴いていたら、ちあきなおみが歌っていた。

 とんでもないうたぢから! ちあきなおみのLPやCDは何枚も持っているけれど、改めてつくづく感嘆する。そのひとつ「かもめの街」。

 そういえば鴎をうたったものにはなかなかいい歌が多い‥。たちどころにいくつかが思い浮かぶ。集めれば優にCD-R1枚分にはなりそうだ。  ☞

 

 そこで“鴎のうた”アンソロジーを編むことにする。

 手持ちのものだけではもちろん足りない。ネット動画であたりをつけて甘損で購入。いや、お手軽な、便利な世の中になりましたねぇ。

 ところが今度は集めはじめるときりがない。苦汁の取捨選択のすえどうにか1枚に。80分のCD-Rに19曲、正味79分53秒!

 して、その中身は?

 

アマリア・ロドリゲス:かもめ(Gaivota)

 ‘カモメ’と聞いて真っ先に思い浮かぶのはこの名曲だろう。声にも、通る声、美しい声、柔らかな声、響く声… 歌手それぞれにさまざまな特徴があるけれど、‘強い声’というならエディット・ピアフとこのアマリア・ロドリゲスが双璧ではないか。

〽 かもめが飛んで描きだす絵が 私にリスボンの空を運んできてくれないか…

 ファドの女王、アマリア・ロドリゲスの最高傑作“COM QUE VOZ”に所収。

 


ミージア:かもめ(La Gavina)

 ポルトガルではみんながファドを唄っている、というわけでもないらしい。日本の民謡のようなものか。アマリアの後継者と目されたミージアも現在ではかならずしもファドに拘泥してはいないようだ。

 このアルバムはミージアのデビュー作。タイトルは‘fado’。だが、この‘La Gavina’はイタリア語で、作詞・作曲のクレジットもなく‘Popular’とのみ表記されている。どんな素性の歌なのか?

〽 おお かもめよ お前のように海を越えて行けるものなら…

 


ダミア:かもめ(Les Goélands)

 ‘暗い日曜日’と並ぶダミアの代表曲。‘暗い日曜日’を聴いて自殺する者が続出したというが、この‘かもめ’もなかなかインパクトのある歌詞だ。

〽 遠い海原で命をなくした水夫は 袋に入れられ逆巻く波間に流される … 水夫の魂は 鴎と一つに溶け合い果てない海原を飛び回る だから鴎を殺してはいけない 鴎は死んだ水夫の魂なのだから

 日本では石井好子が歌っている。

 


パトリシア・カース:かもめの歌(Juste une Chanson)

 中島みゆきの(原)作詞作曲。日本版にのみボーナストラックとして収録されている。中島自身もセルフカバーで歌っているが、その歌詞とパトリシア側に渡された原詞とが微妙に違っているのが面白い。

〈パトリシア版〉

〽 生まれつきのかもめはいない 人は誰も笑顔のかげに 隠しきれぬ涙の粒で 白いかもめを翔ばすよ

〈みゆき版〉

〽 生まれつきのかもめはいない あれは其処で笑っている女 心だけが身体をぬけて 空へ空へと昇るよ

なるほど、ですね。〈みゆき版〉はいかにもより中島みゆき的だ。しかし、パトリシアの歌唱はさすが。

 


研ナオコ:かもめはかもめ

 もちろん、中島みゆき作詞作曲。でもしっかり歌謡曲してますねぇ。

〽 かもめはかもめ 孔雀や鳩や ましてや 女には なれない …

 かもめはかもめ ひとりで海を ゆくのがお似合い

 このうたも中島のセルフカバーがある。しかし如何せん、パトリシア・カースへの歌にしても、この歌にしても、中島バージョンが提供者へのものを上回ることはないようだ。やはり自分向けの歌とはちゃんと作り分けているってことですかね。

 


ジョニ・ミッチェル:かもめの歌(Song to a Seagull)

 ジョニ・ミッチェルのデビューアルバムの所収曲。

 このアルバムの“一人称の歌はほとんどすべて私の個人的な体験を描いたもの”だそうで、LPではA面に「私は町にやってきた」、B面に「町を出て 海辺へ」とサブタイトルがつけられている。

〽 飛べ、おろかな鳥よ … 私の夢はカモメとともに いま誰にも捕まることのない どんな嘆きからも自由な 高い高い空のうえを舞っている。

 


谷山浩子:SEAGULL

  元祖‘不思議ちゃん’シンガーソングライター谷山浩子の8枚目のアルバムに収録。(アルバムはなんと40作くらいあるらしい。斉藤由貴など他者への提供曲もたくさんあって、まあ多作のひとですね。)

〽 幸せは白く透きとおるカモメのかたちをして わたしの上にはかない円を描きはばたいていた

 


小暮はな:一羽のカモメ

 小暮はなの声はわたしのツボだ。このアルバムを入手してから2週間くらい毎日ヘビーローテーションで聴いていた。若い頃はともかく、こんなことはもう絶えてなかったことですけどねぇ…。ほとんど行くことのないライブというものにも2度足をはこんでしまった。生の声も録音と寸分変わらぬファルセットに頼らない深みのある高音。

 音楽的には特段に先鋭的というのでもないけれど、単身ポルトガルに赴いてファドに傾倒しただけあってやはり‘サウダージ’を感じさせる。声も単に‘澄んだ’というだけではない陰翳があるんだな。歌詞にも独特のニュアンスがあっていい。

〽 一羽のカモメが おれを見つめる

 飛べよと カモメ あんたも飛べるはずさ

 飛べよと カモメ 涙もいつか海になる

そういえば以前にこの「AZUL」というアルバムの感想を書いたことがありました。     ☛ わたしを見つめるわたし

 小暮はなのポルトガルでのライブ。歌詞が“ぼく←おれ”“きみ←おまえ”となっているCD収録以前のバージョン。

☛ アンドリーニャ

 


野坂昭如:かもめの3/4(シーサン)

 まあ下手だけど味がありますねぇ。‘マリリン・モンロー・ノー・リターン’なんか、普通のプロ歌手がうたっても面白くもなんともないでしょうなあ。

〽 かもめかもめ サヨナラかもネ

 かもめかもめ また逢うかもネ

 ‘マリリン・モンロー’も‘黒の舟唄’も、野坂が歌ううたの歌詞は多くが能吉利人というひとの手になるが、実は能吉とはそのうたを作曲した桜井順の別名だ。(桜井順は昨年9月に87歳で亡くなった。)

 ‘かもめの3/4’は岸洋子がライブで歌っている動画がある。また、内藤やす子のCDにもあるが歌詞が違っていて、歌は上手いけど、つまらない。

 


浅川マキ:かもめ

 かもめの歌を編もうと思い立って真っ先に浮かんだひとつはこれだ。

 浅川マキのうたは高校生の頃からのわたしの‘持ち歌’で、よく口ずさんでもいましたね。歌詞が長いから、スキーで長いリフトに乗っていた時とかにも(笑)。歌詞は寺山修司です。

〽 おいらが贈ったバラは 港町にお似合いだよ たった 一輪ざしで色あせる 悲しい恋の血のバラだもの

 かもめ かもめ 笑っておくれ

 かもめ かもめ さよなら あばよ

 この盤は浅川マキの死後、マキに惚れ込んだイギリスレーベルが音源を新たにミキシング、マスタリングしてLP-CDにしたもの。

 


ちあきなおみ:かもめの街

 これぞ、ちあきなおみ! 歌い出しの1フレーズだけで完璧にこの歌の世界に持っていかれてしまう。凡百の歌手は尻尾を巻いて逃げ出すしかないだろう。何をうたっても素晴らしいちあきの歌唱のなかでも、‘紅とんぼ’とならぶ極めつけの名唱だ。

〽 カモメよ カモメよ 淋しかないか 帰る故郷があるじゃなし

 おまえも一生 波の上 わたしも一生 波の上

 あ~あ~ ドンブラコ

 この“ドンブラコ”という下手をすれば身も蓋もなくブチこわしのギャグになりかねない歌詞を、かくも見事にうたえる歌手はいないのではないか。自嘲、諦め、倦怠、哀切 … 。この主人公の人生がまざまざと浮かび上がる。

 


石川さゆり:鴎という名の酒場

 石川さゆりという歌手は、デビュー時にはけっして巧い歌手ではなかった。19歳の‘津軽海峡冬景色’だって、伸びのある高い声を徒に張り上げるだけの一本調子なうたいぶりだった。それが20代後半あたりからさまざまなニュアンスを絶妙にうたいわける歌手になった。“天城越え”は28歳だ。この“鴎という名の酒場”は22歳。開花の兆しはやおら見えはじめている。

〽 鴎という名の 小さな酒場 窓をあけたら海 北の海 海 海

 作詞は阿久悠。この歌詞はいいなあ。

 


スピッツ:放浪カモメはどこまでも

 このバンドのことは名前くらいしか知りません。なので特記事項なし。しかしいい曲だと思う。

〽 でも放浪カモメはどこまでも 恥ずかしい日々 腰に巻きつけて 風に逆らうのさ

 

 

 


由紀さおり・安田祥子:かもめの水兵さん

 坂田晃一の編曲がいいですね。

 最初にうたった童謡歌手 川村順子が、長じて英語、ヒンディー語、ドイツ語、韓国語など11か国語に訳して海外交流したことから、現在もさまざまな国でうたわれているのだとか。ヒンディー語を聴いてみたいですね。

〽 かもめの水兵さん 並んだ(駆け足/ずぶ濡れ/仲良し)水兵さん

 白い帽子 白いシャツ 白い服 

 波をチャップ チャップ 浮かんでる(越えてゆく/お洗濯/揺れている)

 本来、4番までだが、ここでうたわれているのは3番まで。由紀さおりのソロに聞こえるけど、3番はユニゾンかも?

 


原田直之:江差追分

  北前船で伝えられた信濃の馬子唄と越後の松坂くずしが融合して、さまざまに変遷、いくつもの流派が発生したという。それだけに歌詞にもいろいろなバリエーションがある。この10人による競演盤でも、いわゆる“正調”をうたっているのは原田直之ほか1名だけだ。鴎が出てくるのも正調のみ。(江差の景勝地として‘かもめ島’があり、その脇にこのジャケット写真の‘瓶子岩’がある。)

〽 朝な 夕なに 聞こゆるものは 友呼ぶ鴎と 波の音

 (ところで、このアルバムには原田のほか初代浜田喜一、早坂光枝、大塚文雄、鎌田英一など錚々たる民謡歌手が居並ぶが、彼等に伍して金田たつえが登場する。演歌歌手がなぜ?と思ったら、彼女は若干13歳で日本民謡協会全国大会で江差追分をうたって優勝し民謡歌手としてデビューしているのだ。演歌に転向して‘花街の母’を売り出すのは25のとき。なんとひしゃげた哀れを催す情けない声であろうかと思っていたのだが、なるほど、江差追分ではなかなかのいい味になってますね。あれは歌意に合わせた芸だったのか…。失礼しました ( ̄д ̄);)

 


石川さゆり:ソーラン節

 これは楽しい。締めの“セイャッ!”の掛け声がなんとも愉快だ。

 今風のソーラン節といえば、運動会でもすっかり定番になった伊藤多喜男の‘南中ソーラン’がはしりだけど、この石川さゆり版がすっかり凌駕しちゃてますねぇ。(そもそも‘南中~’は‘カモメ’が出てこなかったかな?)

 石川さゆりは30を超えた頃から‘日本歌謡の源流を綴る’と称しての‘二十世紀の名曲たち’シリーズ(これは今も人気で再販されている)やJポップ系歌手とコラボする‘X-Cross’シリーズなどを出しているけれど、最近ではこの民謡をうたった“民”、小唄・端唄などの“粋”をリリースした。この2枚もいいですね。石川さゆりの幅広い実力がよくわかる。

 あ、‘ソーラン節’に‘カモメ’が出てくるのは1か所だけです。

〽 鰊来たかと カモメに問えば わたしゃ立つ鳥 エー波に聞け チョイ

 …これって“鴎の歌”、だったのかな?

 


Neo Ballad:八戸小唄

 吉田兄弟あたりからか、他ジャンルとコラボする和楽器奏者や民謡歌手がけっこう登場してきて人気を博していますね。

 Neo Balladは“天然ボーカロイド”若狭さちと、“千手観音”ドラマー上領亘のユニット。ほかにサポートメンバーに津軽(エレキ)三味線や篠笛奏者たちが。

 八戸小唄は昭和初期に八戸市長の肝煎りでつくられた新民謡。

〽 唄に夜明けた鴎の港 船は出ていく南へ北へ

 


カーリン・クローグ:かもめ(The Seagull)

 アルバムのタイトルも‘SEAGULL’だから、この曲想がメインになっている盤なのは間違いがない。でも歌詞カードがないのでなにを歌っているのか分かりません "(-""-)" ジョン・サーマンのソプラノサックスが鳴き交わすかもめの声のようで、カーリンはそれに語りかけるように歌う。フリージャズ的なスタイルからオーソドックスなものまで自在に歌いわけるひとだが、ここではしっとりと聴かせる。

 ノルウェーのジャズ歌手。スティーヴ・キューンやデクスター・ゴードン、アーチー・シェップなどとの名盤が数々あります。

 


東京ウィメンズ・コーラル・ソサエティ/(指揮)岸信介 :鷗

 三好達治の詩に木下牧子が作曲。‘鷗’というタイトルだが詩に‘カモメ’という語は出てこない。

 終戦直後に書かれており、鴎には学徒出陣して戦死した若者たち(白い制服だった)が託されていて、この詩は彼らへの鎮魂歌だという説がある。

 一方で、“海における自由奔放な解放感を、ここでは鷗の行動に見出し、人間に見られぬ彼らの自由を羨望したのである。(中略)新しい出発を試みようとする心構えを示したものとみることができよう。〈阪元越郎:中央公論社「日本の詩歌22 三好達治」〉”とする解釈もある。

 三好は陸軍士官学校に入校していた経歴もあって、戦中積極的に‘戦争詩’を書いた。敗戦直後にさっそく“自由奔放な解放感”をうたったとすれば、あまりに能天気というべきだろう。

 自らに言い聞かせるかのように執拗に繰り返される“つひに自由は彼らのものだ”のフレーズ。なぜあえて“つひに”と言うか。カモメは元々から自由ではないか。そして “彼ら自身がかれらの墳墓” という。やはりこの詩は、三好の痛恨の思いが込められた鎮魂歌とみるべきではないか。

 作曲した木下牧子も、自身のブログで次のように書いている。

繰り返し表現されている「ついに自由は彼らのもの だ」という言葉に、強い祈りを感じる。/彼らは戦争で肉体を失ったけれどその魂は今、自由に 飛び回っている…そんなイメージが湧いて来る。

 解釈の違いによって、この曲の演奏も変わってくる。

 例えば東京混声合唱団と東京交響楽団を山田和樹が指揮した演奏では、フィナーレをはなやかに盛り上げて終わる。

 この東京ウィメンズ~岸信介の無伴奏の女声合唱は、クレッシェンドしつつも最後まで沈痛の色彩を消すことはない。しっくりくるのはこちらだ。

 この曲は混声、女声、オーケストラ伴奏等々のバージョンがある人気曲で、動画でも中学生や高校生の合唱コンクールを記録したものを含め、さまざまな演奏を聴くことができる。そのなかで個人的に気に入っているのはこれ。    ☛  maina 鷗

 このひとはもともと‘大坂☆春夏秋冬’というアイドルグループのメインボーカルだったらしい。でも歌唱はかなり本格的。一人で6声を多重録音しています。(本来4声のはずだが独自に6声に編成し直したのか?!) アイドル、侮るべからず! 木下牧子のほかの楽曲なども配信しています。

 

 

 


 以上、19曲でした。でも泣く泣く入れられなかった歌も数々あって残念。

 三橋美智也は入れたかった…。

 DISH//という若手バンドのノリのいい‘SEAGULL’も。

 渡辺真知子の‘かもめが翔んだ日’や西島三重子の‘かもめより白い心で’‘冬のかもめ’ も鉄板だったなあ…。

 日本ジャズボーカルのゴッドマザー、マーサ三宅…。

 真島俊夫が作曲したサクソフォン協奏曲‘シーガル’… (>_<)

 

 演歌歌手を入れたらキリがないですね。

 八代亜紀の‘舟唄’も?

〽 沖のカモメに深酒させてヨ いとしのあの娘とヨ 朝寝する ダンチョネ

 

 第2弾、つくる?