· 

巨樹巨木ぼっちツアー - 本郷・高輪篇

 

 ヨガも太極拳も去年の暮れあたりから再び休止になってしまった。当分こんな状態が続くだろう。

 3が日は穏やかな好天つづき。

 ふと、樹を見に行こうと思い立った。

 高橋先生の‘神様の木に会いに行く’バスツアーはずっと中断のまま。だが、自分の足で行ける範囲にも見ごたえのある樹はあるはず。 ☞

 灯台もと暗し。東京なら、電車で十分だ。今なら車輌もガラすきだろう。まして樹の周りに集まる酔狂な人間などいようはずがない。冬だから落葉樹はいけない。手初めに本郷~高輪の3か所の常緑樹を訪れることにする。丸の内線と南北線でかなり効率的に周れそうだ。

 

 本郷弓町のクス。

 クスはもっとも好きな樹。とりわけクスを見ると、なぜかその樹が辿ってきたであろう遥かな年月が偲ばれる。不思議だ。

 イチョウや杉のような真直ぐな樹より枝振りも見ごたえがあるし。

 この樹はものの本によれば、樹齢600年、樹高20m、樹周り8.4

m。もと、旗本屋敷にあったが、この樹を残すことを条件にマンションが建てられたという。だから、この樹の所有と管理はマンションの管理組合が行っていて、クレーンを使うような剪定もきちんとされている。よって姿も美しく、樹勢も盛ん。

 こんな樹のあるマンションの住人は誇らしいだろうなあ。うらやましい。 

 

 丸の内線・本郷三丁目から後楽園経由で南北線・本駒込に。浄土宗栄松院の墓地の一角のスダジイ。

 椎は我が家にもあって親しい樹。

 ここの椎は、主幹が既に朽ちてしかも空襲で焼けてしまったらしい。しかし、残った切り株は魁偉といおうか、怪異というべきか。大正15年に天然記念物に指定されたとあるが、この主幹が聳えていたさまはいかばかりだったか。

 

 1時を回ったので、昼食を。

 3が日なので大半が休みのところ、トルコ料理店が。面白そうなので入ってみる。家族連れと二人組が入れ違いに出ていって客は自分ひとりだけになる。

 ムサッカ(揚げナスと挽肉のトマト煮)とひよこ豆のスープ。お、ヱビスもあるではないか。

 初めてというほどではないけれど、微かなエキゾチシズム。

あまり使ったことがないようなスパイスが入っているようだがなんだか分からない。でも予想以上においしい。料理はこれで800円。

 こざっぱりとした店内。スタッフも日本人だ。


 

 南北線で南下。白金高輪に。

 駅から徒歩1分の区民センター・旧細川邸にやはりスダジイがある。ところがいくら見てもそれらしい樹は見当たらない。区民センターと隣のタワービルとの間にコンクリートが盛り上げられていて、なにかの貧弱な木(シイではない)が塗り込められたように生えている。さては、このビルを建てるのでシイを伐ってしまったのだな。罰当たりめ。折角ここまで気分よく来たのに…。

 しかたがない。‘高松くすのき公園’というのが近くにあることが街区地図でわかる。たぶんクスがあるんだろう。せめてそれでも見て帰ることにするか。

 普通よりはちょっと立派なクス、それになかなか形よき枝振りのエノキ(落葉樹です)等々。ま、これでよしとしよう。

 駅に戻ろうとして隣の区民センターを通ると、そこに巡回中の警備員らしき年配の人がいる。つい、以前、ここにシイがありませんでしたか、と聞いてみる。せめて、シイの無念でも聞かせてもらわねば。すると、ああ、シイならここの5階ですよ。ご案内しましょう。というではないか。え?屋上にでも植わっているのか??ちょうどその警備員が乗りこもうとしていたエレベーターに同乗すると、停止階は1階からいきなり5階。そこがまたセンターの出入り口になっている。つまり、この建物は土地の高低差に沿って建てられているのだ。その出口のほんの数メートル先を指差して、あの樹ですよ。

 運よくその警備員に出会って話しかけなければ、ずうっと、このシイの樹は開発の名のもとに伐られてしまっていた、と思い込んだだろうな。やれやれ。

 これはすごい…。やはり主幹は枯れて、幹の下部は空洞化しているようだが、脇からの枝が絡み合って異様なプロポーションを形成している。都教委が設置した案内版では、樹高10.8m、幹回り8.13m、枝振りは東に6.7m…。樹齢は不明らしい。まるで妖怪じゃねえ。うちのシイもあと何百年後かにこんな姿になるんじゃろうか。

 

 

 

 3本、凄いのに会えてすっかり満足。午前10時過ぎに家を出て、暗くなるまえに帰ってきた。味をしめて、ときどき‘(一人)ぼっちツアー’やるかな。

 今日みたいな日、時間だったら、ホームも電車もガラガラ。ま、正月だからね。

 (しかし、今の時期じゃなかったら、てっきりコンビニ強盗のなりだな。)