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木枯らし一号

 

 木枯らし一号。

 明け方にすごい風が吹いている音が夢うつつに聞こえて、それがそうだったらしい。

 でも昼間も突風が吹きまくる。

 こういう日のテニス(軟式です)はなかなか厳しい。 ☞

 

 井上尚弥の先月31日(日本11/1)ラスベガス世界戦を観る。7ラウンドKO勝ち。どこまで強いんだ、この男は。

 スピード、パワー、戦い方の引き出しの多さ、それを情況に応じて自在に使い分ける賢さ、勇気、メンタルの強さ…。

 完全なボクサー。

 

 6RのKOシーン。

 マロニーの左ジャブに合わせたカウンター。

 マロニーのパンチはあと数センチで井上に届いている。それより一瞬速く、井上の左フックがガードの下をかいくぐって顎をとらえる。

 あまりに速い、コンパクトなパンチなので、スローでなければ、なぜマロニーが倒れたのか、まったく分からない。

 

 7R、フィニッシュ。

 マロニーのワンツーに合わせた、完璧なカウンター。

 マロニーの1発目は井上の頬にかすかに触っているようにも見えるが、それをかわしてものの見事に右ストレートが炸裂。

 解説の山中慎介が6Rのときに感嘆していたが、いずれのカウンターも2発目のパンチに合わせているのだ。

1発目なら反射神経とか直観で当てることもあるだろうが、2発目に合わせられるのは、完全に相手のパンチを読み切っているからだ。だから、1発目を見切ってかわし、2発目へのカウンターが決まる。

 ぐちゃぐちゃした判定でなく、あまりに完璧に負かされるので、相手は彼を讃えるしかない。

 マロニーは翌日のインタビューで“井上のことは最大限にリスペクトしている。井上と同じリンクで戦えたことは名誉だったし、この機会に感謝している”と語った。

 

 

 それにしても、ボクサーの精神は凡人には計り知れない。

 リング上で、相手を文字どおり殴り倒すために戦ったのに、そのあとお互いに健闘をたたえあって抱き合う。(モハメド・アリとジョー・フレイジャーは実は親友だったとか。)

 昨年11月の、“フィリピンの閃光”ノニト・ドネアとの“死闘”(井上のもっとも苦戦した試合。2Rに眼窩底と鼻を骨折しながら11Rにダウンを奪って3-0の判定勝ち)の判定が出たあとの光景。

 こういうのは“社交辞令”ではありえないな。

 ドネアはこんなことでも言っているのだろうか。

“やるな、若いの。お前と戦えて嬉しかったよ。”

 

 それにしても、井上の凄さ。

 この男の究極の目標は、ボクシングを極めることにあるのではないか。金も名誉も取りあえずの目的ではあっても、それは勝ち続ければ、ファイトマネーやベルト目当てに挑んでくる強い相手と戦うことができるからだ。

 井上は大橋ジムに所属する際の契約書に“強い選手と戦う。弱い選手とは戦わない”と明記したらしい。防衛のためにランキングの低い相手を選んだりしていた某カメダなどとは志が違う。

 昔の剣豪というのもこんな人間だったんですかね。